1999年のLAPA 3142便事故と、2024年のVOEPASS 2283便事故の間には、ほぼ25年の歳月がある。
この間、航空機の技術、乗員訓練、安全管理システム(SMS)、運航監視、整備管理、規制当局の監督手法は大きく進歩した。それでも二つの事故は、重要な警告を航空安全の世界に突きつけている。
技術や規則が存在していても、手順が形骸化し、警報が軽視され、組織の中で逸脱が許容されるようになれば、安全防護は機能しなくなる。
二つの事故の直接的なメカニズムは異なる。しかし、安全を守るはずだった複数の防護層が徐々に破られていったという点では、驚くほど共通している。
技術的には異なる二つの事故
LAPA 3142便:フラップを展開しないまま離陸を開始
1999年8月31日、アルゼンチンの航空会社LAPAが運航する3142便は、ブエノスアイレスからコルドバへ向かう予定だった。
使用機はボーイング737-204C、登録記号LV-WRZだった。乗員は離陸前にフラップを所定の位置へ設定しないまま、離陸推力を投入した。
その際、離陸形態警報装置(Takeoff Warning System:TOWS)が作動し、機体が正しい離陸形態になっていないことを知らせた。しかし、乗員は離陸を継続した。
アルゼンチン民間航空事故調査委員会(JIAAC)は、フラップの展開を失念したことと、離陸形態警報を適切に扱わなかったことを事故の直接的原因としている。この事故では、地上の2人を含む65人が死亡した。JIAAC最終報告書
VOEPASS 2283便:着氷、性能低下、制御喪失
2024年8月9日、ブラジルの航空会社VOEPASSが運航する2283便は、カスカヴェルからサンパウロ・グアルーリョスへ向かっていた。
使用機はATR 72-500、登録記号PS-VPBだった。同機は高度約17,000フィートで、強い着氷が予想される気象条件に遭遇した。
ブラジル航空事故調査・防止センター(CENIPA)の最終報告書は、機体除氷システムの不具合、整備上の問題、飛行計画、意思決定、CRM、組織文化、管理監督など、複数の要因を指摘している。
乗員は速度低下や性能劣化を示す複数の警報を受けたが、必要な手順は十分に実行されなかった。機体は失速し、制御を喪失した。搭乗していた62人全員が死亡した。CENIPA英語版最終報告書
航空機は警告していた
LAPA 3142便では、離陸推力を投入した時点でTOWSが作動した。まだ離陸中止が可能な段階で、乗員には操作を止め、機体の状態を確認する機会があった。
VOEPASS 2283便でも、航空機性能監視システム(APM)が低速や性能劣化に関する警報を繰り返し発していた。
つまり、両事故とも航空機の警報システムは危険の存在を示していた。
しかし、警報装置は、それだけで事故を防ぐことはできない。警報が認識され、正確に解釈され、訓練された行動へ直ちに結びついて初めて安全防護として機能する。
過去に同じ警報を経験しても重大な結果が起きなかった場合、乗員や組織は警報に慣れてしまうことがある。異常が日常化し、警戒心が低下するのである。
手順は存在していたが、運航を支配できなかった
LAPAにはチェックリストと離陸中止手順が存在していた。しかし、私的な会話がチェックリストの実施と重なり、操縦室の注意が分散していた。
不要な会話を排除する「ステライル・コックピット」の原則が守られず、フラップ設定の確認が完了しないまま離陸が開始された。
VOEPASSにも、機体除氷システムの不具合やAPM警報に対応するためのクイック・リファレンス・ハンドブック(QRH)があった。CENIPAは、それらの手順が適切に実行されなかったと判断している。
ここに共通するのは、手順の不在ではない。
問題は、承認された手順が実際の運航行動をコントロールする力を失っていたことにある。
航空会社は、完全なマニュアル、最新の訓練記録、承認されたSMSを備えていても、日常の運航がそれらから離れていれば、安全な組織とは言えない。
事故前から重要な情報は存在していた
LAPAの調査では、機長の過去の評価記録に、操縦室内の連携、飛行形態の設定、緊急時の反応、手順の理解などに関する指摘が繰り返し記録されていた。
しかし、それらの情報は、事故便に至る前に十分な是正措置へ結びつかなかった。
VOEPASSでは、機体除氷システムの不具合が事故以前の飛行でも発生していたが、テクニカルログに正式に記録されていなかった。
記録がなければ、整備部門や運航部門は、修理、機材変更、運用許容基準(MEL)の適用、飛行経路の変更といった対策を正式に検討できない。
両事故では、危険を示す情報が事故便以前から存在していた。問題は、その情報を組織として収集し、共有し、評価し、運航上の決定へ変換できなかったことである。
正式な経路を通らない情報は、安全防護として機能しない。
インフォーマルな慣行が安全管理に入り込んだ
LAPAの操縦室音声記録には、飛行と無関係な会話がチェックリストの実施と混在していたことが記録されている。
VOEPASSの報告書は、操縦士、整備士、管理部門など、複数の階層に広がるインフォーマルな組織文化を指摘した。この文化は、柔軟な人間関係を生む一方で、即興的な判断、規則の緩和、正式な記録を避ける行動を許容していた。
良好な人間関係そのものが危険なのではない。
危険なのは、口頭の連絡が正式な整備記録を代替し、個人的な了解がMELや承認手順より優先されることである。
航空安全には信頼が必要だが、同時に追跡可能性も必要である。
逸脱の常態化
CENIPAはVOEPASSについて、「逸脱の常態化(normalization of deviation)」に相当する組織的問題を明確に指摘している。
不適切な行動や警報の軽視が過去に重大な結果を生まなかったため、それらが徐々に許容され、通常の行動として受け入れられていった。
LAPAの報告書は同じ現代的表現を使用していない。しかし、繰り返されていた操縦上の問題、規律の低下、十分でなかったフォローアップは、同様の問いを投げかける。
逸脱の常態化は、一般的に次のように進む。
- 例外的に規則が省略される
- 重大な結果が起きない
- 同じ省略が繰り返される
- 異常が慣行になる
- 慣行が安全だと誤認される
- 最後に残った防護層が破られる
昨日事故が起きなかったことは、今日の運航が安全である証明にはならない。
CRM訓練と実際の操縦室行動
LAPAはCrew Resource Management(CRM)訓練を実施していた。それでも事故便では、注意の分散、不適切なコミュニケーション、クロスチェックの失敗、警報に対する共同対応の欠如が見られた。
VOEPASSでも、CENIPAはタスク管理、乗員間コミュニケーション、脅威への共同対応に問題があったとしている。
CRMは、講習を修了しただけでは成立しない。
その成果は、実際の操縦室で確認されなければならない。
- PFとPMの役割分担が明確か
- モニタリングが継続されているか
- 副操縦士が危険な判断に異議を述べられるか
- 機長が反対意見を受け入れられるか
- どちらかの乗員が不安全な運航を止められるか
訓練記録は資格を証明する。安全文化は、その訓練が実際の行動を変えたかどうかを示す。
管理監督は運航の実態を把握していたか
LAPAでは、過去の評価に複数の問題が記録されていたが、それらが十分な介入へつながらなかった。訓練や審査記録にも不完全な部分があった。
VOEPASSでは、管理監督の不十分さが事故への寄与要因として分類された。運航部門と整備部門のインフォーマルな慣行を抑制できず、逸脱が受け入れられる環境が形成されていた。
管理監督とは、書類がそろっているか確認することだけではない。
重要なのは、実際の運航がどのように行われているかを把握することである。
- シミュレーター外でも手順は守られているか
- 不具合は正式に記録されているか
- 繰り返される警報は調査されているか
- MELは適切に適用されているか
- 訓練で発見された問題は再評価されているか
- 安全上の懸念を報告しやすい環境があるか
書類上の適合性と、実運航上の安全性は必ずしも同じではない。
規制当局に関する重要な違い
二つの報告書は、規制当局の監督について同一の結論を出していない。
VOEPASSの事故では、CENIPAはブラジル国家民間航空庁(ANAC)の対応を寄与要因として分類した。事故前の検査で複数の不適合が確認されていたものの、危険な慣行の継続を防ぐには不十分だったと評価している。
一方、LAPAの報告書は、当時存在していた会社と国家監督機関の規則・手順が遵守されていれば、事故を防止できたとしている。
したがって、規制当局が両事故で同じ役割を果たしたと断定することはできない。
共通しているのは、警報、手順、訓練、記録、監督という複数の防護層が、適切な行動へ結びつかなかったことである。
日本の航空安全コミュニティへの示唆
日本の航空界は、手順遵守、整備品質、報告制度、組織的な安全管理を重視してきた。それでも、LAPAとVOEPASSの教訓は日本と無関係ではない。
高度に規律化された組織でも、次のような兆候には注意が必要である。
- 「以前も問題なかった」という説明
- 同じ警報や不具合への慣れ
- 正式記録より口頭連絡を優先する慣行
- 訓練上の指摘が組織横断的に共有されない状態
- 現場が運航停止を提案しにくい雰囲気
- SMSが書類管理中心になる傾向
安全報告制度、フライトデータモニタリング、整備記録、CRM評価、内部監査は、それぞれを独立させるだけでは不十分である。
複数の情報を結びつけ、事故になる前の「弱い兆候」を発見する能力が求められる。
結論
25年という時間、航空機技術の進歩、規則の強化だけでは、似た組織的失敗を完全に防ぐことはできなかった。
LAPA 3142便では、離陸形態警報が作動した。VOEPASS 2283便では、性能低下を示す警報が繰り返された。どちらの航空機も危険を知らせていた。
しかし、その警告に至る前から、別の警告が組織内部に存在していた。
不完全な記録、繰り返される問題、手順からの逸脱、弱い監督、CRMと実際の行動の乖離である。
最終的な操作上の誤りだけを「原因」として終わらせれば、その誤りを可能にした組織条件は残り続ける。
航空安全の進歩は、新しい技術を導入することだけではない。弱い兆候を見逃さず、不都合な情報を正式に記録し、必要であれば運航を止めることのできる組織をつくることである。
二つの航空機は警告を発していた。より深い問いは、組織がその警告を聞く能力をすでに失っていなかったか、ということである。
マーカス・シルバ・レイス(Marcuss Silva Reis)
固定翼事業用操縦士|民間航空学校教官|航空科学大学教員|航空分野の司法鑑定人|経済学士|航空科学・民間航空安全・高等教育学の大学院課程修了|眼鏡光学技術者
Instituto do Ar 創設者

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Marcuss Silva Reis